法定相続人の中に行方不明の方がいらっしゃる場合、その方を除外したままで遺産分割協議を進めても良いのでしょうか?
結論から言うと、それはダメです。仮に遺産分割協議をしたとしても、その協議は無効となります。人は生きている限り権利を有し、単に行方が分からないからという理由のみでその権利を勝手に奪うことはできないからです。
まず、一口に行方不明といってもいろいろなケースがあると思います。
1.連絡が取れず、連絡先を知る方法が分からない場合
2.生きてはいるはずだが住所がなく、居所が分からない場合
3.上記2.の状態が7年以上も続き、そもそも生きているかどうかも分からない場合
1.戸籍の附票で住所を知る
まず、上記1.の場合には、まず行方不明の方の住所を特定するため、まず戸籍謄本を取り寄せて行方不明の方の現在の本籍地を割り出します。
その本籍地の市区町村で更に戸籍の附票という書類が取れますので、その戸籍の付票を取ると、その方の現在の住所が記載されていますので、それで特定することができます。
それをもとに、行方不明の方と連絡を取って(手紙や直接訪問など)、遺産分割の交渉を進めることになります。
1.の方法でも戸籍の附票から現在の住所が判明せず、連絡が取れない場合には、次の2.または3.の段階に進みます。
2.不在者財産管理人の選任
これは、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらい、その不在者財産管理人が行方不明の方の代わりに遺産分割協議に参加して、遺産を分割するという方法です。
もっとも、遺産分割協議に参加したり、協議内容に同意したりすることは、財産の管理というよりは処分といえる行為ですので、不在者財産管理人であっても自由にできるわけではなく、別途家庭裁判所の許可が必要になります。(これを、不在者財産管理人の権限外行為許可といいます。)
【不在者財産管理人選任申立ての手続き】
申立ては、行方不明の方の従来の住所地か居所の住所地の家庭裁判所に対して行います。
不在者財産管理人には、行方不明の方と相続での利害関係のない親族(おじ、おばなど)が選任されるケースが一般的ですが、司法書士などの専門家が選任されるケースもあります。
申立てから不在者財産管理人選任の審判が確定するまでには2~3ヶ月かかります。
必要な書類は、申立書の他に、
◎行方不明の方の戸籍謄本
◎行方不明の方の戸籍の付票
◎不在者財産管理人候補者の住民票または戸籍の付票
◎不在の事実を証する資料(行方不明者届受理証明書など)
◎不在者の財産に関する資料(不動産の登記簿、預貯金や有価証券の残高が分かる書類)
◎申立人の利害関係を証する資料(戸籍謄本など)
◎収入印紙800円分
◎郵送用の切手(額は、家庭裁判所によります。)
※場合により、追加の資料提出を家庭裁判所から要請されることがあります。
【不在者財産管理人の権限外行為許可の申立ての手続き】
申立ては、不在者財産管理人を選任した家庭裁判所に対して行います。
不在者財産管理人の選任の申立てと同時に行うこともできます。
必要な書類は、申立書の他に、
◎遺産分割協議書の案
◎相続人を特定するための戸籍謄本など
◎収入印紙800円分
◎郵送用の切手(額は、家庭裁判所によります。)
※場合により、追加の資料提出を家庭裁判所から要請されることがあります。
申立から許可が出るまでには1ヶ月程度かかります。
なお、許可が出るためには、遺産分割協議の案において、行方不明の方にも法定相続分程度の額の遺産が確保されている必要があります。
3.失踪宣告
これは、行方不明の方を法律上は死亡したものとみなす制度です。(この点が、行方不明の方が生きていることを前提としている不在者財産管理人の制度とは異なります。)
行方不明の方について失踪宣告がなされると、死亡とみなされますので、その方についても相続が発生します。したがって、その方の法定相続人全員がその方の地位を受け継いで、被相続人についての遺産分割協議に加わることになります。
もっとも、行方不明の方がどこかで生きていたことが判明した場合には、宣告自体は取り消されますが、既にした遺産分割協議の効果は有効のままです。
【失踪宣告の申立ての手続き】
失踪宣告の申立てができるのは、7年以上生死が不明な時か、事故や災害などによって1年以上生死が不明な時に限られます。
申立ては、行方不明の方の最後の住所地の家庭裁判所に対して行います。
必要な書類は、申立書の他に、
◎申立人の戸籍謄本
◎行方不明の方の戸籍謄本
◎行方不明の方の戸籍の付票
◎失踪を証する資料
◎利害関係を証する資料(親族の方の戸籍謄本)
◎収入印紙800円分
◎郵送用の切手(額は、家庭裁判所によります。)
◎官報公告料4,298円
※場合により、追加の資料提出を家庭裁判所から要請されることがあります。
申立てから失踪宣告が出されるまでには、約8ヶ月~1年程度かかります。不在者財産管理人選任の申立てよりも時間がかかるのは、官報公告の手続きがあるからです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
はしもと司法書士事務所
代表 司法書士・相続診断士・民事信託士 橋本浩史(奈良県司法書士会所属 第471号)
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員(会員番号 第6410360号)
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簡裁訴訟代理関係業務認定司法書士(認定番号 第1012195号)
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