登記識別情報についての証明には、前項8.で述べた有効証明の他に、不失効証明と呼ばれるものがあります。これは私たち司法書士が通称している言い方で、正式には、「登記識別情報の不通知・失効証明」と呼ばれています。
この不失効証明も、登記名義人が権利を取得した際に通知された登記識別情報が現在もきちんと効力を有していることを証明する手法には違いないのですが、なんでわざわざ有効証明という証明方法があるのに別の証明方法を用意する必要があるのでしょうか?
これには実務上の深い理由がありまして、登記識別情報が導入された当初は有効証明の制度しかなく、また、有効証明を行うためには登記識別情報の12ケタのパスワードの情報を法務局に開示する必要があります。
ところがお客様の立場から言いますと、事前に登記識別情報通知書のシールをめくってその12ケタのパスワードを開示してしまうことに抵抗を感じられることはごもっともなことだと思います。
つまり、司法書士は取引の安全確保のための登記識別情報の有効性確認の必要性と、お客様の抵抗感との板挟みに苦慮することになりました。
そこで、その問題点を解決するため、登記識別情報の12ケタのパスワード情報を提供しなくても登記識別情報の有効性を確認できる方法として、不失効証明という方法が編み出されたのです。
つまり、お客様から事前に登記識別情報を開示していただく必要はなくなったため、お客様にとっても、我々司法書士にとっても簡便な方法で、特にオンライン申請による証明請求の場合には飛躍的に仕事がやりやすくなりました。
ところで、通称が「不失効証明」で、正式名称が「不通知・失効証明」と上で述べましたが、何で逆の言い回しなの?と思われた方も多いかと思います。
その理由を見ていくことにしましょう。
法務局に対して「何県何市何町○番の土地の名義人Aさんに対する平成○年○月○日受付第何号の所有権移転登記についての登記識別情報は、不通知または失効していることを証明して下さい。」と請求
↓
法務局から回答「証明できません。登記識別情報が通知され、かつ失効していません。」という、かなり回りくどい言い方で証明がなされます。
ちなみに有効証明請求は法務局に対し、「何県何市何町○番の土地の名義人Aさんの所有権移転登記についての登記識別情報(例.3DF-7Q6-KL5-CN8)は、有効であることを証明して下さい。」と請求
↓
法務局から回答「提供された登記識別情報は当該登記についてのものであり、かつ失効していません。」という、ストレートな言い回しです。
つまり、不失効証明とは、失効して「いない」ことを直接証明するのが難しい(「悪魔の証明」と言われます)ため、「通知されてない、または失効していることを証明できない」=「(裏を返せば)有効なのだろう」、というように、裏側から登記識別情報の有効性を明らかにしているのです。
正式にいうと不通知・失効証明を請求しているのですが、証明出来ないという回答が帰ってくる点をとらえて、不失効証明と通称しているのです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
はしもと司法書士事務所
代表 司法書士・相続診断士・民事信託士 橋本浩史(奈良県司法書士会所属 第471号)
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員(会員番号 第6410360号)
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