12.任意後見の利用者は法定後見を利用できるか

Q.私はAさんと任意後見契約を締結しました。その後、Aさんの判断能力が低下したため、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てをし、選任された任意後見監督人の監督のもとで、Aさんの任意後見人としてAさんから委託したアパートの管理を行ってきました。

 

Aさんは認知症がさらに進み、判断能力の低下がひどく、介護サービスを受けて自宅で暮らすことも限界になってきました。自宅やアパートを処分して老人ホームへ入所することも検討していますが、任意後見契約では、そのような不動産の売却や老人ホーム入居契約の権限までは明記されていません。

 

そこで、任意後見人である私が成年後見等の開始(法定後見)の申立てをすることができるのでしょうか。成年後見人などが選任されるとこれまでの任意後見はどうなるのでしょうか。

 

A.Aさんとの間の任意後見契約が発効し、任意後見人の事務が開始した後でも、本人の利益のために特に必要がある場合には、任意後見人は家庭裁判所に対し、後見開始の審判等(法定後見)を申し立てることができます

 

本件の場合には該当すると思われますので、任意後見人であるご質問者様が成年後見開始の審判等の申立てをすることができます。

 

Aさんに後見開始の審判等があり、成年後見人などが選任された場合には、既に発効していた任意後見契約は終了します。

 

任意後見も法定後見も、いずれも本人の判断能力が低下した場合に、第三者の援助によって本人の保護を図ろうとする点では共通しています。

 

両者の関係ですが、本人の自己決定の尊重の理念から、原則として任意後見による保護を優先しています。つまり、任意後見契約が登記されている場合には、任意後見監督人の選任の前後を問わず、原則として法定後見開始の審判等をすることはできません。

 

しかし、任意後見人がいても、その任意後見契約によって付与された権限では本人の保護に欠ける事態になったような場合には、もはや任意後見を継続するのは適当ではなく、成年後見人等による財産管理の必要性が生じます。

 

任意後見契約に関する法律では、「本人の利益のため特に必要がある」と認めた場合に限り、法定後見を開始するものとしています。

 

「本人の利益のため特に必要がある」場合とは、具体的には
1.任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分であり、必要な法律行為が行えず本人の保護に欠けることになる場合
2.判断能力の低下した本人が消費者被害に遭わないための同意権や取消権による保護が必要な場合
などが考えられます。

 

ご質問者様のケースでは上記1.に当てはまるものと考えられます。ご質問者様はAさんの任意後見人ですから、後見開始の審判の申立権者として、Aさんに対する後見開始の審判等の申立てをすることができます。

 

成年後見人は家庭裁判所が職権で選任しますが、これまで任意後見人としてAさんからの信頼に基づいてAさんの事務を行ってきたご質問者様が、引き続き成年後見人に選任される可能性もあります。

 

このように任意後見人が職務を開始した後で法定後見がなされると、任意後見人と成年後見人等の権限の矛盾や抵触を防ぐため、これまでの任意後見契約は終了します。

 

また、ご質問のケースでは既に任意後見契約が発効していますが、逆に任意後見契約の発効前の場合であっても、同様に法定後見開始の審判等を行うことができます。

 

この場合には、既存の任意後見契約は未発効のため、そのまま存続することとされています。